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Ship of Theseus

 ある晴れた日曜日。広い催事場で同人誌即売会が行われていた。代償様々なサークルが軒を連ねる会場の一角で一人の売り子の青年が大きなあくびをしながら店番をしていた。彼は、知り合いの手伝いでここにいるのだ。

「暇だな……」

 彼は両手で頬杖をつきながらうつらうつらとしていた。そんな中で、こんな声がした。

「おおっ、久しぶり」

「へ……?」

 彼は顔を上げた。それはどこかで聞き覚えのある声だった。誰だ? 青年がそう思いながら周りを見回していると、また声がした。

「おーい、こっちこっち」

「……」

 彼は目を見開いた。なぜなら、声のした方に妙に不気味な造形のロボットがいたからだ。

「ど……どちら様で?」

 青年がそう言うと、ロボットは真顔をたたえたままこう言った。

「おれだよ、お・れ。テル」

「え……テル?」

 彼はテルと名乗るロボットを見た。


 テルは青年の学生時代からの友人だった。彼とは学校帰りにいつも一緒に遊ぶほどの仲だった。そんなテルは、大学卒業後に刑務官になったが、半年前に通勤途中の事故で亡くなった。青年の知ってる限りではそのはずだった。

「嘘だろ……死んだはずじゃなかったのか」

 青年がそう言うと、友人と名乗るロボットはカラカラと笑った。

「おれが死んだって?おれはまだ生きてるよ」

「どういうことだ?」

「もしもの時のために、自分の脳をデジタル化したんだ。で、この機械の体に移して今に至るってわけ」

「……」

 わけがわからなかった。

「来週には仕事に復帰する予定なんだ。みんなが今のおれを見てどんな反応をするか楽しみだよ」

 腕を組んで、上を見上げる仕草。それは、自分がよく知っているテルがよくする仕草だった。自然なのはそれだけではない。声色や、イントネーションもまさに生前の彼そのものだった。青年は恐怖を覚えた。目の前のテルが彼のようであって彼ではないから。

「おい、どうしたんだよ?顔色悪いぞ」

 そう心配したテルが、青年の肩に触れようとした時、彼は反射的に逃げ出した。

「おい、待てよ」

 友人のその言葉も気に留めず、青年は全速力で会場から出た。一刻も早くその場から出たかった。逃げることに夢中だった。必死なあまり、彼の耳には車のクラクションの音は届かなかった。


「……」

 意識を取り戻してすぐに目に入ったのは、白い天井だった。自分は一体どうなったんだ。彼はまばたきをしようとしたができなかった。そんな彼の横で聞いたことのある声がした。

「おっ、やっと目を覚ましたか」

 視線を横に巡らすと、テルがいた。 目を覚ました?今自分が置かれている状況がわからずにいる青年は、ふと自分の手を見た。

「え……」

 その手は、友人と同じ機械の手だった。と、言うことは……嫌な予感が頭の中によぎったその瞬間、テルがこう言った。

「よかったな。これでおれと同じだ」