CityScape

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ピクシー部隊-未来の戦争Ⅲ-

二月某日。その日のサンフランシスコ沖は、少し荒かった。激しい波間にたゆたうボートは、何秒か置きにガタガタと揺れ、おれに若干の吐き気を催させた。少し気分を変えようと、はしごを登って操舵室のあたりに顔を出すと、湿った生暖かい風が頬を撫でた。別に自分の腹の内容物を出すわけではなく、新鮮な空気を胸いっぱいに吸いに来たわけでもない。要するに、なんとなく外に出てみただけだ。とりあえず考え事をする体で、曇った空を見つめていると、後ろから何かに小突かれる。

「デイブ、そろそろ出発よ」

輝くような金髪に、気の強そうな目。そして、女にしてはハスキーな声。彼女はおれの同僚のハリエットだ。

「うん、わかったよ」

おれははしごを降りた。


はしごの向こうの少し薄暗い空間。そこには壁面にかけられる形でリュックのようなものがずらりと並んでいる。一見すると乗員の荷物か、あるいはもしもの時の救命胴衣だが、残念なことながらそのどちらかでもない。これはなぜおれたちがわざわざ船に乗ってここに来ている理由に、直接繋がっているものだ。おれは、そのうちのひとつを背負う。すると、整備スタッフが二人ほどやってきて、チェックを始めた。

「ジェットパックよし!」

「噴出口も異常なしです」

「うん、よし」 

背負うタイプのジェットパックに、噴出口付きのアームカバー。まるでヒーローものに出てきそうな雰囲気になったおれは、何度か腕を動かした。その周りでは、ハリエットと他の同僚二人が同じように装備の具合を確かめていた。

「準備はいいか?」

「ええ」

ハリエットは首を縦に振る。

「ばっちりです」

親指を立てたのは、ダンだ。

「OKです」

指で輪っかを作ったのはリックだ。

「よし。じゃあ、行くぞ」

おれはヘルメットを被った。


ピクシー部隊。それがおれたち一行につけられたチーム名だ。いわゆる小さな体に可愛らしい羽を背中に生やしたファンシーな生き物の名前が、なぜ厳しい装備をつけたおれたちにつけられているのか。その疑問はとりあえず今は置いとくことにして、話を続けることにする。


おれたちは甲板の上に一列に並んだ。 「3、2、1、テイクオフ!」 若い隊員がそう言い終わらないうちに、おれたちはそれごと空へと飛び上がった。噴出口から出てくる細い煙ともに。


船の上空まで来たおれたちは、両腕両足を広げ、全身を気流にまかせた。背中と腕から水蒸気を噴射しながら飛ぶ。その様子こそが、先程言ったピクシーの名前の由来だ。ハイテク装備を携えて、空を自由に舞うおれたちは、アメリカ沿岸警備隊の精鋭部隊であると同時に、同技術部自慢の装備を軍の方へデモンストレーションするための実験体でもあった。つまり、おれたちが活躍すれば活躍するほど、技術部の連中は大喜びするってわけだ。でも、そんなことは考えないようにしている。おれたちにとって、自分が奴らのモルモットだと自覚するよりも、国の海の平和を守るという重大なミッションを背負っていると自覚することが、精神衛生上良いことなのだから。


「ハリエット、ダン、リック、ついてきてるか?」

気流に身を任せたままの状態で、おれは追随している三人に声をかけた。

「勿論よ」

「大丈夫です」

「順調っす」

今、おれたちの周りで聞こえているのはヒューヒューと言う音だけだ。それでも声をばっちり拾えているのは、ヘルメットに搭載された高性能マイクのおかげだ。

「よし、それじゃあ、気流に乗って向こうまで行くぞ」

「ラジャー!」


曇り空の下、一艘の船がのんびりと航行していた。外見だけ見ると、害のない漁船に見えるが、その側面には国や所属を表す証拠が書かれてなかった。これを不審船だと判断した上層部は、おれたちに内部に潜入せよと指令をだした。そうして今に至るのだ。


不審船の上まで来たおれたちは、ここらで二手に別れることにした。おれとハリエットは、船の前から、リックとダンは船の後ろからそれぞれ潜入することにした。


おれは少し空中で旋回した後、舳の上に降り立った。ハリエットも後に続く。

「こいつはどこの国の船なんだ?」

おれは舳から甲板に降りた。その横で、彼女が小声で言う。

「デイブ、あそこに見張りがいるわ」

ハリエットの言うとおりだった。おれたちがいるあたりから、白い柱を挟んで数メートル先に若い男があぐらをかきながらうつらうつら居眠りしている。

「ああ……」

おれは腕につけているブレスレットのボタンを押した。すると、瞬く間に全身が周りの景色と同化した。光学迷彩。敵にバレずに任務を遂行するにはもってこいだ。 「よし、ついてこい」 おれは意気揚々と匍匐前進を始めた。ハリエットも急いで光学迷彩をオンにし、追いかける。相手を起こさないように、慎重に進んでいると、耳元で鈴がなるような音がした。無線のコール音だ。マイクを応答モードに切り替える。

「こちらトムキャット、応答願います」

聞こえてきたのは、リックの声だ。

「こちらブルータイガー。どうしたんだ?」

「先ほどこちらも甲板に到着しました。今、なんとかこちらに来るタイミングをうかがっています」

「こっちは、監視の目をかいくぐろうとしてるところだ」

「了解です」

彼はそのまま無線を切った。おれがマイクを元のモードに切り替えようとしていると、突然ハリエットが肩を叩いてきた。

「どうした」

彼女は無言で向こうを指さした。

「……」

そこでは、先程の男が仁王立ちしていた。すっかり忘れていた。無線を使うと光学迷彩が切れてしまうことを。

「くそっ……こうなったら」

おれは、思い切った行動に出ることにした。

「あっ、UFO!」

なんのことはない。古典的なジョークだ。

「あ?」

相手が周りを見回している隙を狙って、おれは思いっきり蹴りを入れた。男はぎえっと情けない声をあげてそのまま気絶した。

「あなたって、何かと力づくなのね」

一連の出来事をそばで見ていたハリエットは、呆れたように言った。

「うるさいな」

おれは立ち上がった。

「さっさと行くぞ」


 おれたちは、甲板の上を歩いていた。勿論光学迷彩はオンにしたままでだ。まずおれは床を注意深く見ていたのだが、特に怪しい荷物みたいなものは特に見られなかった。でも、どこかに隠されているはずだと足元ばかりを見ていた。

「偏ったところばかり見ていると転ぶわよ」

「わかってるよ」

 おれはそこまで歩いたところで、いきなり立ち止まった。

「どうしたの?」

「秘密の入り口だ」

 おれはゆっくりとしゃがむ。その目の前には、やや錆びた扉があった。おれは、それをゆっくりと開ける。すると、ギギギという音と共に開いた。扉の向こうは階段になっていて、地下へと続いていた。薄暗い階段を降りていくと、今度は真っ暗な空間が現れた。このままじゃ見えないと思ったおれはライトをつけた。

「これは……」

 闇の中に現れたのは、大量の箱積みされた荷物だった。中身を見てみると、袋に入ったコカインが大量に入っていた。

「奴らは、これを密輸しようとしていたんだわ」

そのうちの一つを手にしながら、ハリエットは言った。

「だろうな」

おれは、一回光学迷彩をオフにした後、リックとダンに無線を送った。

「へええ、コカインっすかあ」

おれの話を聞いたリックは、驚きの声をあげた。

「もし、見つかってしまったら、返り討ちに合いそうですね」

そう言ったのはダンだ。

「ダン、そういう時のためにいい作戦がある」

「作戦……ですか?」

「うん、それはだね……」

おれがそう言いかけたその時、上が急に騒がしくなった。

「おい、この中にいるぞ」

「よし、早く捕まえろ」

おそらく先ほどの見張りが起きてしまったのだろう。まずいと思い、三人に手短に作戦を話す。

「とりあえず、おれの指示があるまでじっとしてろよ」

そう言ったその時、上の扉が開く音に続いて足音がした。奴らが来たのだ。一人は、さっきの見張りで、もう一人はまるまると太った男だった。二人はそれぞれピストルを携えている。

「もう……仕方ないわね」

ハリエットは、ため息をつきながらジェットパックのボタンを押した。すると、上の部分から小ぶりなマシンガンが現れた。

「なっ……」

相手は、彼女のようなか弱い女の子がまさかそんなのを持ってるなんて、一ミリも思っていなかったようだ。 ハリエットは華奢な首を思いっきり下へ動かす。それと同時に、乾いた破裂音がした。 バババ、ババババン。バン、ババン。それからは弾丸の撃ち合いだった。おれも勿論加勢する。一般的なピストルと沿岸警備隊の技術の結晶。その凄まじい撃ち合いは、天井に思いっきり穴を開けた。ここまではおれの作戦通りだ。

「ハリエット、行くぞ」

おれはジェットパックを再び起動。ハリエットと共に穴から外へでた。

「このっ……」

太っちょ男はあきらめずにぶっ放すが、鳥のように自由に空中に舞うおれたちが相手では、歯が立たなかった。数回撹乱させた後、おれはこう言った。

「さっきのお返しだ」

必殺、マシンガン乱れ撃ち。巣を襲撃されたスズメバチよろしく襲いかかってくる弾丸の雨に、二人は逃げ惑った。そして、チャンスは訪れた。

「リック、ダン、今だ!」

おれのその言葉とともに、隠れていたリックとダンが飛び出してきた。二人は逃げようとする悪人たちを羽交い締めにした。これにてミッション完了。おれは向こうに連絡する。

「こちらブルータイガー。対象の確保に成功した。これより帰還する」

「貴様ら……何者だ」

そう言ったのは太っちょだ。そんな彼に、おれはこう言った。

「おれたちか?おれたちはあんたらの悪夢さ」