CityScape

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メタモルフォシス

その日は、やけに静かだった。気がつくと、ぼくは薄暗く狭苦しい空間にいた。

「どこだ、ここ」

ぼくは体を動かそうとした。しかし何故かうまく動かせなかった、と言うよりは動けなかった。ぼくはどこにいるんだ。そう言おうとしたけど、声が出せなかった。

「……」

ぼくはおおいに混乱していた。声を出せないフラストレーションと暗い中にたった一人という状況から来る心細さが混じり合い、爆発しそうになっていた。そんな時、目の前が急に明るくなった。普通なら、ここで大丈夫かと駆け寄ってくるところだが、現実は非情だった。

「おいちび共、仕事だ」

飛んできたのは、怒号だった。それに呼応するかのように、後ろの方から小さなロボットたちが一斉にやってきた。わけもわからずにポカンとぼくがその場に突っ立っていると、また怒号が飛んできた。

「おい、お前も行くんだよ。ポンコツが」

「……」

ポンコツなんて失礼だな。そう思ったその時、ふと近くにあった鏡が目に入った。それに映っていたのは、先程のロボットと同じ姿だった。


それからというもの、ぼくは他の小さなロボットたちに混じって働いた。ぼくがいたのは海辺にあるホテルで、主な仕事はレストランの配膳作業だった。料理を運んでは空いた皿を回収し、さらにまた運んでは回収する。毎日がそれの繰り返しだった。なんの代わり映えもしない仕事ばかりで、ここに来て三日目くらいになる頃には、もう飽きていた。


ある日の夜中。ぼくは大胆にも部屋の外に出ることにした。こんなところにずっといるのもまっぴらだから、家に帰ろうと決めたのだ。ぼくはロボットたちを管理する[主任]の目を盗んで、こっそりホテルの外に出た。夜が明ける前に早く戻ろう。そう思ったその時、ぼくの目(というよりはカメラ)があるものを捉えた。ぼくは、吸い寄せられるようにそれに近づく。

「……」

こちらを見返すうつろな瞳。そして頭にべったりとついた鮮やかな血。ぼくが見たものとは、人の死体だった。それを見た途端、ぼくは今まで忘れていた全てを思い出した。目の前にある死体はぼくのもので、ハッカーだったぼくは、取引場からビットコインを大量に盗み、そのせいでお尋ね者になったぼくは、逃げ場がなくなったこの状況を脱するべく、このホテルのサーバーに自分の意識データをアップロードし、自身は自殺したことを。