数時間後。
「わたし、男の人の部屋に招かれるのは初めてです」
アンは恥ずかしそうに顔を赤らめながらグレゴールの部屋に入った。
「ふふ、緊張しなくてもいいんだよ」
彼は、窓の外に誰もいないことを確認した後、カーテンを閉めた。オレンジ色の間接照明があたりを照らす中、グレゴールは、アンの隣に座った。対する彼女は、彼の目をじっと見ている。その瞳の色は、緑がかかったグレーだ。彼はそれにうっとりと見惚れる。アンの柔らかいプラチナブロンドの髪を左手の指で漉きながら、グレゴールは右手で彼女の肩を抱く。すると、彼女は途端にその美しい眉をひそめた。
「どうしたんだい?」
「いいえ、なんでも……」
そうかぶりをふるアンの視線は向こうに注がれていた。ちょっと緊張してるんだろうな。最初はそう思って気にしないようにしたが、さっきのあのパーカーの男の姿が頭をよぎってきたので、恐る恐る彼女が見ていた方向を見る。
「……」
ガラス越しでもはっきりとわかる氷のような冷たい視線。アンが見たのは、なんと先程の黒パーカー男だった。
「おいっ……!」
グレゴールがそう言って立ち上がると、黒パーカーはまた逃げた。
「ちくしょうっ……!」
彼は、床を強く踏んだ。
「絶対に捕まえてやる」
グレゴールの怒りはもう限界だった。