ぼくの祖父が亡くなったのは、今から半年前のことだった。優しくて、誰からも愛された祖父。誰もがその死を悲しんだ。その中でも一番悲しみに暮れたのが、その妻である祖母だった。彼女は、あの日からずっと時間が止まったままだった。
「孝雄さん……」
祖母は一日中、仏壇の前でおじいちゃんの名前を呼び続けていた。
「もう、いつになったら前を向いてくれるのかしらね」
これはぼくの母の言葉だ。母は祖父の死からいつまでも立ち直れない祖母に少しうんざりしていた。
「うん……」
ぼくは、そんな祖母を不憫に感じていた。なんとか祖母を元気付けたい。そう思ったぼくは、得意のプログラミングを活かして、あるものをプレゼントすることにした。
数日後。この日は、祖母の誕生日だった。
「なにこれ……」
目の前にあるものを見て、父は顔をしかめた。母は何か気持ち悪いものを見流ような目でそれを見ている。 二人の目の前にあるのは、小さな台の上に円筒形のガラスケースが乗った物体だ。その中には、亡くなったはずの祖父が、そのままの姿で微笑んでいる。 祖母は少し目をパチクリとさせた後、小さな声で「孝雄さん」と呟いた。
「やあ、琴子さん。久しぶりだね」
祖母の声に、祖父はにっこりと笑った。
ぼくが祖母にプレゼントしたものというのは、祖父を再現したバーチャルエージェントだ。ぼくは生前の祖父が亡くなるまでつけていた日記や、思い出の中の祖父の記憶などを元に、祖父を作り上げた。元となる情報を手に入れるまでは少し手間取ったが、自分にしてはいい出来だった。そんなぼくの自信作を前に、祖母は感動の涙を流した。その後ろで父がぼくに小声で言う。
「おい、これはなんなんだ」
「なにって、おじいちゃんを蘇らせたのさ」
ぼくは、さらりとそう言った。しかし、その態度が気に食わなかったのか、次の瞬間には父のビンタが飛んできた。
「馬鹿野郎」
すごい剣幕だった。
「こういうのをなんて言うか知ってるか? 死者への冒涜ってやつだ」
ほんとに古い考えだな。ぼくは頬をさすりながら、向こうをちらりと見た。
「でも、見てよ」
ぼくは向こうを指さす。
「え?」
その方向には、久々の満面の笑みを浮かべる祖母の姿があった。
「母さん」
父は信じられないといった面持ちで自分の母親を見た。
「とても嬉しそうな顔してるよ」
ぼくは笑いながらそう言った。
それからと言うもの、祖母は、祖父とずっと一緒だった。食事の時も、寝る時もずっと一緒だった。そんな中で、祖母はぽつりとぼくにこう漏らした。
「たかし。わたしが死んだら、孝雄さんと一緒にいれるようにして欲しいわ」
ぼくはちらりと筐体を見た。ぼくは言った。
「うん」
「じゃあ、お願いね」
祖母は嬉しそうだった。
数年後。祖母はぼくたち家族が見守る中で、安らかな最期を迎えた。でも、ぼくは寂しくなかった。祖母は我が家の筐体の中で、バーチャルエージェントとして祖父とともに家族を見守っているから。ガラスの向こうで祖父と仲良く寄り添う祖母は幸せそうだった。