時は近未来。工場や倉庫の仕分けなどのいわゆる誰にもできる仕事は、人間からロボットにとってかわられていた。しかし、人間は仕事を実際にしない代わりに遠くから遠隔操作でロボットを手助けする仕事をマニュアル化し、誰でもできる仕事にした。
「うぇぇ、これだけかよ」
ジミー・ローレンスは、銀行の預金手帳を見ながらうめいた。彼の仕事は、地元にある有名流通倉庫で在庫の整理をするロボットたちを、自宅からサポートすることだ。ここ近年で、単純作業用のロボットが増えたために、それを管理し、サポートするオペレーターの需要は高まっていた。彼らのすることと言えば、ロボットたちの行動を監視し、もし混乱してるようなら、コマンドを使って正しい道筋に連れ戻してやること。最初の頃は、プログラマーの仕事だったそれは、技術の進化と共に、マニュアル化され、例えプログラミングができなくともできる仕事となっていた。そのせいか、休憩を取らせず、三日三晩飲まず食わずでやらせたりするなど、若干ブラック化していた。ジミーたちの場合は、いかにも高収入そうにもかかわらず、給料が極めて安いことが問題になっていた。一度は倉庫長に直談判したが、君たちは我々から仕事をもらっている側だからこれで我慢しなさいと言われた。もう泣き寝入りするしかないのか。彼らの間では諦めムードが漂っていた。
「ちくしょう、ふざけやがって」
もちろんジミーもその一人だ。彼は憤慨しながら家に帰った。 ジミーが自分の自宅アパートに帰ると、つけっぱなしのパソコンと、必要なコマンドが書かれたマニュアル本が彼を出迎えた。画面の向こうでは小さなロボットたちがせっせと作業していた。
「……」
画面をぼーっと見ているうちに、ジミーの胸の中にはいいようのない怒りが湧いてきた。もう、我慢できない。そう思ったジミーは、画面の下にある入力欄に書いてあるコマンドを書き換えた。
次の日。
「やぁ、チビくん」
倉庫長が太鼓腹を揺すって様子を見にきた。その姿を見るやいなや、ロボットたちは一斉に彼のところに来た。 やれやれ、わたしに懐いているのかな。 そう思った矢先、ロボットたちは急に倉庫長の足を執拗に攻撃し始めた。彼はそれを避けようとして転んでしまった。ロボットたちは、倉庫長の背中をタイヤで轢いたり、頭に何度も体当たりした。
「ちょ、どうしたんだ」
倉庫長がそう言ってもロボットたちは見向きもしなかった。 その頃。ジミーは倉庫長がボコボコにされているところを他のオペレーターたちと一緒に見ていた。彼が入れたコマンドは、倉庫長を見たら襲うよう命じるコマンドだ。ジミーがずっとこの日のために大切にとっておいた手製のコマンドだ。
「はっはっは、いい気味だな」
ジミーはコーラを片手にニヤニヤしていた。 その横では同僚たちがいい笑顔で囃し立てる。
「すごいよ、ジミー」
「こんなことができるなんて、ほんとすごい」
「へへっ、まあね」
ジミーは満更でもない顔でそう言った。