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今週のショートショート #18「ハイ•ウォーカー」

 二〇二九年 八月

 アメリカ・マサチューセッツ工科大学 運動場

 その日はスッキリと晴れた天気だった。青空の下、運動場のトラックを囲むようにたくさんの企業関係者や新聞記者が集まっていた。彼らは、ここの卒業生が中心になって開発された新型二足歩行ロボット”ハイ・ウォーカー”のデモンストレーションを見にきたのだ。  

 四角い箱に長い足がついたような形の”ハイ・ウォーカー”は、青空をバックに二本の足でしゃんと立っていた。開発チームのリーダーであるヴィクターはその姿が誇り高く見えた。スタートへのカウントダウンに合わせて彼の心臓は高鳴っていた。そしてカウントダウンがゼロになった瞬間、彼は”ハイ・ウォーカー”に指示を与えるコントローラーのスイッチを押した。それに呼応するかのように、”ハイ・ウォーカー”も走り出す。その姿はどこか軽やかだ。  

 ”ハイ・ウォーカー”の走りは順調だった。その走りに合わせて、ヴィクターたちの熱も上がる。

「よーし、いいぞ。もっと早く」

 この時の彼は、ひどく興奮していた。彼は速度を上げるようコマンドで指示する。それに答えるかのように、速度を上げる”ハイ・ウォーカー”。全てが順調に思えたが、異変はすでに起きていた。

「ん?」

 最初に異変に気づいたのは、ヴィクターの後輩であるナンシーだった。

「どうした、ナンシー」

 そう言ったのは同じチームのメンバーであるリードだ。

「なんか、上から水蒸気が出てるんだけど」

「え……」

 彼はトラックを走り続けている”ハイ・ウォーカー”に目を向ける。そうすると、その上部にある回路などを入れた中枢に当たる部分から何やら湯気のようなものが出ていた。リードは、嫌な予感を感じた。

「まずいぞ……あれは」

「オーバーヒートだ」

 そう呟いたのは、ヴィクターだ。どうやら彼も異変に気づいていたようだ。

「早く、止めないと」

 ナンシーは、焦った様子で言う。ヴィクターは、急いでコントローラーの停止コマンドを押した。しかし、なぜか”ハイ・ウォーカー”は止まらなかった。暴走を始めたのだ。もはや誰にも止められなくなったそれは、運動場のフェンスを勢いよく突き破り、外へ出てしまった。

「おい、待て」

 ヴィクターたちはあわててその後を追った。    ”ハイ・ウォーカー”は脱走したダチョウよろしく、車道を駆けていた。その姿におどろいたドライバーたちは次々と事故を起こした。さらにそれは歩道に上がり、道ゆく人々の間を走り始めた。ある通行人はぶつかって転んでしまい、水溜りの前にいた若いご婦人はせっかくの服を泥だらけにされてしまった。

「ひどいわ、新しい服が台無しじゃない」

「うわ、なんだ」

 驚きと怒りが交差しあう街の中をかきわけつつ、ヴィクターたちは、”ハイ・ウォーカー”を追っていた。

「いたぞ、あそこだ」

 走っている。

 湯気を上げながら走っている。  

”ハイ・ウォーカー”が暴走している。

 三人はなんとか追いつこうとした。しかし、相手が早いせいで、全然追いつけなかった。ギラギラと太陽が照りつける中、走っていたせいか、ヴィクターたちの体力は限界だった。いつになったら、終わるんだ?三人がほぼ同時にそんなこと思った瞬間、それは訪れた。なんと”ハイ・ウォーカー”が、三人の数メートル先にある池に勢いよく飛び込んだのだ。”ハイ・ウォーカー”は煙を上げながら、池の中で、動きを止めた。