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マウンティング面接

 ここは都内のどこかにあるとある会社。そこの一角で、集団面接が行われていた。
 
 部屋の中には、三人の就活生が二人の面接官と向き合っていた。その中で灰色のスーツを着た若い男の面接官が口を開く。
「それでは、左の方から自己紹介お願いします」
「F川大学より参りました、川瀬綾乃です」
 そう言ったのは、ショートヘアの気の弱そうな娘だった。その声はややか細く、震えてはいたものの、目の方はしっかりと相手を見据えていた。
「R橋大学より参りました、森野唯です」
 続いて名乗ったのは、川瀬とは逆に気が強そうなセミロングの娘だ。ハキハキとした声とまっすぐに面接官を見つめる視線は、まさにここに入るために来ましたと言いたげな感じだった。
「T大学より参りました、大沢正です」
 最後に名乗ったのは、黒いスーツ姿の若いメガネの男だった。弱々しい川瀬と気が強い森野とは違い、余裕たっぷりのオーラをかましていた。全員の自己紹介が終わったところで、いよいよ本題に入る。
「みなさん、まずは我が社の志望理由を教えてください」
 面接官の一人がそう言うと、まず川瀬が口を開いた。
「私が御社を志望した理由は、ここでの仕事を通じて人間的にも成長したいと思ったからです」
「ほう」
 そう相槌を打ったのは、ハゲかけた頭にメガネをかけたいかにも嫌味くさそうな男だった。そんな相手の圧力に負けず、川瀬は続ける。
「わたしは幼い頃から、泣き虫でした。なので、あえて常に強いメンタルが求められる営業に身を置く事で、成長したいんです」
 やや震え声なものの、その声はどこか力強かった。すぐ隣でそれを聞いていた森野は、思わずかっこいいなと感心した。そうしていると、先程の禿頭がこう言った。
「川瀬さんさ、君ってF川大学出身なんだね」
「はい、そうですが……」
「あそこって、ランクが低いらしいねえ」
 その瞬間、川瀬の表情が固まった。
「うちではおつむの弱い社員はいらないんだよねえ」
 禿頭はいやらしい笑顔を浮かべながらそう言った。
「成績はそんなに悪くありません」
 川瀬は声を震わせながらそう言った。
「ちょ、秋月さん」
 若い方がそう止めたのにも関わらず、秋月さんと呼ばれたはげ頭はさらにこう付け加えた。
「あとさ、君の特技が合唱と書いてあるんだけど、それって何に生かせるわけ? 役に立たないよ」
 そう言われた彼女の目は潤んでいた。当たり前だ。特技にあるぐらい自信があるものを見ず知らずの男に否定されたらそりゃあ傷つくだろう。一束触発の中、隣の森野がこう言った。
「ちょっと待ってください。それはあまりにもひどすぎませんか?」
「え、何がです?」
 秋月は少しも悪びれた様子を見せることなくそう言った。
「合唱だって、役に立ちますよ」
 森野ははっきりとした口調でなおも続ける。
「それで培った人と歩調を合わせるということが、きっと役に立ちます」
「森野さん……」
 川瀬は、まるで憧れの人物を見るような目で、彼女を見た。しかし、秋月は相変わらずニヤニヤ笑いをしていた。
「さすが情に厚いですね。さすが元空手部」
 その手には履歴書が握られている。
「いいですか。これは我が社に相応しい上質な社員を振り分けるためのものです」
 だが、森野はくじけなかった。
「でも、やりすぎです」
 そんな揺るぎない彼女の心を折ろうと、秋月はさらに攻める。
「森野さん、あなたの履歴書には長所のところに正義感が強いって書いてあるけど、そう言うのは裏えを返せばお節介ってやつなんですよ」
 森野の手は、怒りで震えていた。もはやマジでキレる五秒前といった状況の中、誰かが彼女の肩を叩いた。振り向くと、大島が穏やかな笑みを浮かべていた。
「ここは僕に任せて」
 彼はそう言うと、二人にウィンクして見せた。
 
 大島は呼吸を整えると、冷静な口調でこう言った。
「えー、誠に申し訳ないのですが……」
 彼は冷静な態度を崩さぬまま、こう続けた。
「ここは公平な場なので相手の悪いところをネチネチと突かないでいただけませんか」
 秋月は、大島の履歴書を見た。しかし、彼の経歴や志望動機もまるで教科書のように完璧すぎて、粗らしい粗がなかった。つまり隙がないということだ。それでも秋月は、彼の粗を探そうとこう質問した。
「えーと……君はボランティアサークル活動をしていたらしいけど……そこで大きな失敗とかはなかったかな?」
「たとえば、どんな失敗ですか?」
「え、えーと……アイスケースに入った写真をSNSにあげたとか……限定グッズを転売したとか」
 それを聞いた大島は、大笑いした。
「秋月さん、もしかして僕の粗を探そうとしてませんか?」
「べ……別に」
 さっきのふざけた態度が嘘であるかのように、秋月はあせり出した。そんな相手に大島は言う。
「そんな会社には入りたくないですね……というかもう別の会社に入ったんですけどね」
「え?」
 唖然とする森野と川瀬を前に、大島はこう言った。
「実はぼく、こういうものです」
 彼は森野に名刺を渡した。それにはこう書いてあった。
「スカイリサーチ社 調査員 大島正……?」
「え、大学生じゃないんですか」
 そう言ったのは川瀬だ。彼女を含む、そこにいた全員がざわつく中、大島はこう言った。
「実は、ここの会社の面接がとてもやばいってネットで話題になってて……」
「それで、調査にきたんですか?」
 森野はそう聞いた。
「はい。まあ、残念ながら本当だったんですけどね」
「そん……な」
 秋月は、ズレたメガネを直しながら大島を見た。
「秋月さん、先程の会話は全部録音されています」
「バカな……そんなものは禁止のはずです」
 彼がそう言うと、大島は、メガネを外した。
「ふふっ、実はこのメガネ、ウェラブル端末になっているんですよ」 
 秋月はひどい汗をかいていた。
「これでなんでもできるんですよ。録音もそれをサーバに流すことも」
「え……」
 呆然と立ち尽くす相手に、大島はニコッと笑いながらこう言った。
「さっきのデータ、会社の共有サーバーに流しておきました」 
「くっ……」
 まずくなった秋月はその場から逃げ出そうとした。しかし、それは突然の訪問者によって阻止された。
「あ……」
 現れたのは立派な体格をした初老の男だった。秋月は、震える声で相手を呼んだ。
「しゃ……社長」
「秋月くん、これはなんだね」
 社長はタブレットを操作した。
 "うちでは、おつむの弱い社員はいらないんだよねえ"
 "森野さん、あなたの履歴書には長所のところに正義感が強いって書いてあるけど、そう言うのは裏えを返せばお節介ってやつなんですよ"
 そこから聞こえてきたのは、先程の言葉だった。
「こ……これは」
 秋月は弁解しようとしたが、社長にすぐに遮られた。
「君のような、話を聞かない社員はこちらから願い下げだ」